今回は譲渡所得での取得費の調整を解説します。
国外中古建物の賃貸期間中に損益通算の制限特例に基づいて生じなかったものとみなされた不動産所得の損失額の累計額は、その建物を売却して譲渡所得の金額を計算するときに、償却費の累計額から控除されます。つまり取得費の額は、本特例で切り捨てられた損失額の分だけ大きくなり、譲渡所得の金額が圧縮される結果となります。
なお、取得費の調整制度を適用するために、切り捨てられた損失額の個別管理が必要です。
今回の改正による税金への影響を具体例で考えてみましょう。
<前提:投資スキーム>
-建物の築年数は50年、耐用年数は簡便法より5年と計算された。
-この個人の不動産所得以外の所得は1億円で最高税率945%(所得税+住民税)。
-この建物の賃貸で毎年収入1000万円、支出は無し。計算上の減価償却費が4千万円生じ、結果的に不動産所得は▲3千万円(損失)。
-5年経過後に2億5千万円で売却。長期譲渡の税率適用と仮定。
1.改正前の収入と税効果
(1)5年の保有期間【不動産所得】
毎年の所得 ▲3千万円×55.945%=▲1,678万円の税額圧縮:5年間で▲8,390万円
(2)5年経過後に購入価額と同じ2億5千万円で売却【譲渡所得】
➢2億5千万円-(取得2億5千万円-減価償却費2億円)=譲渡所得2億円
➢納税(5年超の長期譲渡)・・2億円×20.315%(所得税+住民税)=4,063万円
(3)5年間の節税効果・・・・▲8,390万円-4,063千円=▲4,327万円
→ 収入5,000万円に対して、税▲4,327万円
2.改正後の所得税効果
(1)5年の保有期間【不動産所得】
毎年▲3千万円の赤字は減価償却費(4千万円)を要因とするため切り捨て=税額圧縮効果は0円。
(2)5年経過後に購入価額と同じ2億5千万円で売却【譲渡所得】
➢2億5千万円-(取得2億5千万円-減価償却費2億円+3千万円×5年) =所得5千万円
➢納税(5年超の長期譲渡)・・・5千万円×20.315%(所得税+住民税)=1,015万円
(3)5年間の節税効果・・・・0円 納税1,015万円
→ 収入5,000万円に対して、税1,015万円
上記2のとおり、今回の改正により、保有期間中は減価償却費を原因として生じた損失が切り捨てられるため、節税効果は得られないことになります。ただし譲渡所得は、保有期間中に切り捨てられた損失額が取得費に加算調整されるため税額が圧縮されます。